Special スペシャル
「青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない」
原作者・鴨志田 一×監督・増井壮一
連載インタビュー
《迷えるシンガー編》
原作者・鴨志田 一×監督・増井壮一
連載インタビュー
《迷えるシンガー編》
高校生編から1年の時間が経過し、大学生編がスタートしました。スムーズに作品に入っていくために、どのような工夫をされましたか?
鴨志田一
(以下、鴨志田)
(以下、鴨志田)
高校生編は「ゆめみる少女」、「ハツコイ少女」までで一区切りと捉え、その後の「おでかけシスター」と「ランドセルガール」を書くタイミングで、少しずつグラデーション的にキャラクターの精神年齢を上げていき、シームレスに大学生編が始められる状況を作っていきました。
増井壮一
(以下、増井)
(以下、増井)
アニメの方も似た感じです。高校生編のテレビシリーズと、劇場アニメ「ゆめみる少女」の後、「おでかけシスター」と「ランドセルガール」は高校生編の最終章であると同時に大学生編の導入と捉えた画面作りをし、その空気のままスタートする気持ちでいました。
小説からすでに謎のネットシンガーの存在などの伏線があったので、それをどうやってさりげなく仕込めるかについて気を配りました。赤城郁実の出番もあくまでさりげなく。「ランドセルガール」を見た人は、終わったあとで「あれ?あの眼鏡の子なんだったんだ?」とか、「ランドセルの少女、何も解決してないですよね?」というまま、放っておいて終わる感じでしたけど、ようやくそこに手がつけられます(笑)。
小説からすでに謎のネットシンガーの存在などの伏線があったので、それをどうやってさりげなく仕込めるかについて気を配りました。赤城郁実の出番もあくまでさりげなく。「ランドセルガール」を見た人は、終わったあとで「あれ?あの眼鏡の子なんだったんだ?」とか、「ランドセルの少女、何も解決してないですよね?」というまま、放っておいて終わる感じでしたけど、ようやくそこに手がつけられます(笑)。
キャラクターを1年成長させていますが、環境の変化や描写の仕方で工夫されたことを教えてください。
鴨志田
お話として急に大学デビューするようなことはないので、精神的には緩やかに曲線を描いて大学生になっていくということが一番かなと思っていました。周りの環境の変化とともに訪れる変化もあって、たとえば塾講師をすることによって、歳下の生徒との関係が生まれ、そこでちょっとお兄さん・お姉さんらしさを感じさせます。今までと違う一面を見せられるチャンスでもあるので、そのあたりは第一に書きたい要素でした。

増井
原作と同じくアニメでも、スタッフの皆さんにはデザインや演出をしていただく際、「ちょっとだけ」お兄さん・お姉さんになりましたと、伝えていました。これまでのキャラクターを知っているファンの皆さんに、「急に変わった」と感じさせるのではなく、季節が移り変わり、ちょっと散髪して印象が少し変わったぐらいの感じに捉えて欲しいと思いました。新しく登場するキャラクターたちについては、その場に馴染めるかどうかを重要視しました。映像的に、同じ画面に収まったとき、新しい子だけ急に別世界からやってきたように感じさせない統一感を大事にしています。


今回メインヒロインとして描かれた卯月ですが、どのように生み出されたのでしょうか?
鴨志田
「天然で空気が読めない子」という立ち位置のキャラクターで、物語においてとても重要なポジションの子だと思っています。これまで「空気と戦う」とか、「空気を読まなければいけない」という話をずっとやってきたわけですが、そのなかで「空気を読めない子の苦悩」については、どこかできちんと触らないといけないと思っていました。それを体現したのが卯月というキャラクターです。

鴨志田
今回のお話で思春期症候群が起きている卯月、つまり空気が読めるようになった卯月ですが、以前との違いが伝わりづらいので、なるべく分かりやすく書くよう気を付けていました。一つハッキリと明確に変わっているポイントを言うと、他人の話を「聞いている」か「聞いていないか」です。相手に質問をされたときにちゃんと回答できるのが、「空気を読んでいる状態の卯月」。対して、「空気読んでない時の卯月」は、相手に何か言われても体をすり抜けて自分の言いたいことを言っている。それぐらいの大胆さで書いています。
アニメにおける卯月の描き方で意識された点を教えて下さい。
増井
「迷えるシンガー」を読んだ時に、これは映像化が難しそうだなと思いました。というのも、卯月の様子を表情で察してもらう部分が多くなりそうで、それはもうアニメーターの力に頼るしかないんです。そのために卯月の表情の設定資料を大学生編では倍に増やして作業に入りました。
それまで卯月はただ単に「天然な子」という印象で終わっていたのが、劇場アニメ「おでかけシスター」で彼女の高校生活が描かれ、彼女の下地や深みみたいなものが用意されました。そこを手掛かりにしつつ、大学生編ではまた異なる表情の卯月を描写しています。視聴者の方には「おでかけシスター」を見返していただけると繋がって見えやすいのかなと思います。
それまで卯月はただ単に「天然な子」という印象で終わっていたのが、劇場アニメ「おでかけシスター」で彼女の高校生活が描かれ、彼女の下地や深みみたいなものが用意されました。そこを手掛かりにしつつ、大学生編ではまた異なる表情の卯月を描写しています。視聴者の方には「おでかけシスター」を見返していただけると繋がって見えやすいのかなと思います。


卯月とのどかの関係性はどのように描いていきましたか?
鴨志田
スイートバレットでの活動もそれなりに長い時間共有しているので、のどかは基本的には卯月の味方であるというスタンスは大事にしました。「おでかけシスター」や「ランドセルガール」で、のどかは意外と面倒見が良いことも描いています。スイートバレットの中でもそのスタンスは変わらず、どちらかというと周りを制御する側のポジションで、卯月の悩みに対して親身になっていることを一つの軸にしています。この「迷えるシンガー」編を通してまた一つ新しいのどかの面が見れるようにしたいと思っていました。

増井
のどかはお姉ちゃんと一緒に住んでいるとはいえ、お母さんとは別居状態だし、卯月と一緒にいる時間が一つのクサビになっていたと思うんです。のどかにとって、この「迷えるシンガー」編ではそれがなくなってしまうことを初めて経験するお話でもあります。卯月が中心となるお話ではありますが、同時にのどかが見えるように、2人の友情の話という部分を重きとして置いておきたいなと思って作っていきました。

鴨志田先生が「空気を読む」ことを大学生編で描いて行こうと思われたのは、実際の大学生もそのような圧力を感じているからなのでしょうか?
鴨志田
大学生というより社会全体で、空気を読みながら生きていくことがベースになっている、と言った方がいいのかもしれません。そうしたなか、空気が読めない卯月という子がいて、彼女を通して、「読めたほうが良いのか、読めないほうが良いのか、どちらが幸せでしょうか?」ということを「迷えるシンガー」編では描きたかったんです。
増井監督はこの「空気を読む」ということに対して、ご自身としてどう捉えていますか?
増井
たぶん僕個人はあまり空気を読まない方だと思います(笑)。その意味で、「空気を読めない卯月」の方に親近感が湧きますし、「こっち側の話だな」という意識で原作を読んだりしていました。演出する上では、読める読めないのどちらが良いとか悪いとかではなく、そういうある種の無神経な部分の距離感とはどういうものかを探しながら作っていきました。

