──まずはthe peggies(以下peggies)の自己紹介をお願いできますか?
北澤ゆうほさん(以下、北澤)
バンドの要素として大きいのは、中学校2年生から同じメンバーで10年間バンドを続けていることかなと。それだけ長い間一緒にいたら必然的に信頼関係が築かれるので、その関係性から生まれるグルーブ感が曲にあるんじゃないかなと思っています。
あと特徴として言えることが、3人とも好きな音楽はバラバラなこと。「楽器をやりたい」って共通点だけで集まった3人組なので、やっている音楽性も実はミクスチャーで……。そんな色々な要素を最後に“キャッチー”という袋に入れて表に出したいなと思っているのが、peggiesというバンドです。聴く人を選ばない曲を作り続けていきたいです。
──キャッチーかつ聴く人を選ばない曲作り。そういう意味では、peggiesとアニメって凄く相性が良いような……。
北澤
そうなんです! 色々な人に届くことは私にとって理想的で、凄く良い機会をいただけたなと思ってます。『青ブタ』でpeggiesを知ってくれた方たちがたくさんいるので、いつかライブハウスに遊びに来てくれたら嬉しいですね。
──では「君のせい」には、どんなお気持ちで向かわれたのでしょうか?
北澤
自分たちの気持ちの話をすると……メジャーデビューして1年が経ったんですが、ここにきて、自分のやりたいことのベースができたなと思っていて。これまでは前作とは違うサウンドにチャレンジしようって意識していたんですが、「どう見られたいか」をあまり気にしなくなった。それで「次はカッコよくて良い曲を作りたいな」と思ったんです。
しかも今回はアニメのオープニングということもあって、普段ロックを聴かない子や音楽にあまり馴染みのない人たちにも聴いてもらえる機会になるだろうなと。邦楽ロックが好きなひとに「どうぞ聴いてください」というよりかは、純粋に印象に残る良い曲だなって思ってもらえたらいいなと。
──それでこのキャッチーなメロディが生まれたんですか?
北澤
いえ、実は原型は昔からあったんです。と言っても、弾き語りでちょっと歌う程度で、全然固まっていなかったんですけど。その時から「これは良い曲になるんじゃないか」って話を内輪でしていたんです。
サビがキャッチーで1回聴いたら覚えてもらえると思うし、『青ブタ』のイメージと一致する部分があったので、このメロを磨いて形にしようと。
──北澤さんが感じた『青ブタ』のイメージとは?
北澤
お話をいただいたときは、映像がまだできていなかったんです。それで脚本を何話分かいただいて。私自身ライトノベルはあまり読んだことがなかったので、タイトルや設定を見たときに「ファンタジックでSF的な作品なのかな?」と思ったんですが、実際に読んでみたら共感できるエピソードがたくさんあって。キャラクターの内側を探ったときにアニメに寄り添った歌詞が書けそうだなと思って、実際に自然とイメージが沸いていきました。
──ライトノベルはあまり読まなかったとのことのですが、北澤さんのご実家は神保町にある老舗の書店(北沢書店)ということもあり、やはり文章を読む機会は多かったんでしょうか。
北澤
実家の本屋は洋書専門なので家の本を読むことはないんですが、両親がめちゃくちゃ本を読む人なんです。両親に勧められた本が自分のアンテナに引っかかったら読んだり、読まない場合は父親が内容を教えてくれたり……そんな感じです。でも『青ブタ』はすんなり触れることができました。
おそらく、主人公のセリフの言い回しや設定にライトノベル特有の雰囲気があると思うんですが、文学作としてはみ出ていないというか……小説が好きな人も違和感なく読めるんだなと。面白くて、ファンの方に支持されている理由が分かるなぁと思いました。
──魅力的な作品ですもんね。斬新な展開で、どんどん惹き込まれていくというか。
北澤
そうですね。作品の展開としては常に奇想天外で。出てくるキャラクターたちがめちゃくちゃ濃くて、「これ誰だっけ?」ということがないんですよね。自分自身と重ねられる部分がありつつも、ありきたりじゃなくて、次はどうなるんだろうってワクワクもあるのが良いなって。
──特に共感したところというのは?
北澤
麻衣ちゃんの性格ですね。表面的なところから言うと、最初に江の島の水族館にバニーガールの姿で1人で佇んでいたじゃないですか。私も高校生のときは小田急線沿いの学校に通っていたこともあって、そのまま電車に乗って江の島の水族館に1人で行ってたんです(笑)。
あと、性格にも共感するところがあって。麻衣ちゃんって当たりが強いというか……棘のある言い方をするんだけど、強がってるだけで実は寂しがり屋なんですよね。そのあたりが「分かるなぁ」と。今回の曲を作るにあたっても、麻衣ちゃんのセリフや描写に着目して「麻衣ちゃんだったらどう思うかな?」ってイメージしながら書いていきました。
──先ほど最初に原型があったというお話をされていましたが、<君のせい 君のせい>……というサビのメロディが先にあったということですか?
北澤
そうです! サビです。
──あのサビが心を掴みますよね。最初からサビが頭にくる構成だったんですか?
北澤
もともとは違いました。でもあのサビが頭にくることで、アニメを見ているひとに「ん?」って思ってもらえるような引っ掛かりになるんじゃないかなと思って。それでサビを頭に持ってきました。
──『青ブタ』のタイトルを初見で見たときに「おっ?どんな話なんだろう?」って思うのと同様に、この<君のせい 君のせい>……というサビを聴くと「これから何が起こるんだろう」ってワクワクさせられます。
北澤
そう言っていただけると嬉しいです。<君のせい>をどんなニュアンスで歌うか、どれくらい間をあけるかは試行錯誤しました。何パターンか歌って「どの君のせいがいいのかな」って。
──それにしてもこのキラーワードの<君のせい>ってどこから浮かんできた言葉なんでしょうか。
北澤
なんとなく弾き語りで弾いてたときに出てきた言葉なんです。考えて出てきたってよりかは、バンッてナチュラルに出てきたというか。私がきっと、誰かのせいにしたかったのかもしれない(笑)。
私がいつも思うのは、人は一人きりだと孤独にもならないし、寂しくもならない。何も感情が生まれない。嬉しかったり悲しかったりするのって、結局どういう形であれ……そばに誰かがいるからなんじゃないかなと思っていて。恋愛も含めて、誰かがいるから自分の感情が動いてる。でも、それを“誰かのおかげ”って言ってしまうと、まとまりすぎちゃうなと思ったんです。敢えて<君のせい>って言葉で歌うことによって、麻衣ちゃんの強がっている感じも出せるかなと。
麻衣ちゃんに限らず、思春期の中高生や……大人になっても心の若い部分ってあると思うんです。“誰かのせいでこうなった”というのが良いことでもあるんだよっていうことを表現できたらいいなって。
──曲の後半に出てくる<君のせいで今ね 私は綺麗になるの>って言葉の通り、悪いことだけじゃないよと。
北澤
そうそう! そういう風に色々な感情が入り乱れているのも思春期特有だと思うんです。自分自身でもまとまりがつかなくて、なんて言葉にしていいか分からない、むしゃくしゃみたいなものが、<君のせい>って一言で伝わるんじゃないかなって。私も中高生の頃ってどう思ってたかな、今恋をしたらどうなるんだろう……って、今と昔の記憶をミックスしながら歌詞を膨らませていきました。
──昔の記憶、ですか? 例えば?
北澤
う~ん……。私、高校生のときはトチ狂ってて、世の中全員が敵だと思ってたんです。誰も味方はいない、誰もいなくなればいい!って思ってて。とがりすぎて、ある日を境に友達がひとりもいなくなる……っていう、そんな刺激的な高校時代を送ってました(苦笑)。でも本当は誰かと一緒にいたい。でも言えない。そういう気持ちを痛感してたんです。
中高生のころに上手に生きられなかったこそ、ひとつひとつ歳を重ねるにつれて、ひとに優しくすることの意味や、誰かと仲良くすることの喜びを実感するようになった。もし中高生の子たちがこの曲を聴いてくれるのなら、自分自身の不甲斐なさや攻撃的になってしまう部分を否定的になりすぎないでほしいなっていうのも、掘り下げると伝えたいメッセージではあるかもしれないです。
──そのままの君で良いと。
北澤
そう。人間っていやでも変わるので。今の君がそうならそれが正解なんじゃないのかなって思います。こういう不器用な歌詞も……この曲に限らず、ずっと思っていることなんですけど、自分に肯定的であろうよって思う私の気持ちがにじみ出たものなのかもしれないですね。
──「君のせい」は作品の舞台である江の島周辺の爽やかな風も感じさせます。
配信シングルの「サマラブ超特急」にも<海はすぐそこさ>という一節がありましたが、北澤さんにとって海ってどんなイメージなんでしょう?
北澤
私の中で青春と言ったら海だろみたいなイメージがあって(笑)。私は友達と海に行ったことがほとんどないんです。夏が苦手すぎて、夏遊んだ記憶が人生にほとんどなくて。みんなが遊んでいるところに入れなかったコンプレックスがあったんですね。
「サマラブ超特急」は、そのコンプレックスに卑屈になりすぎずに、楽しんでいる人も楽しめない人も肯定できるような曲にしよう!という思いで作った曲だったんです。海で制服デート……いいなぁ……」って想像しながら(笑)。
──海で制服デート……青春の象徴的な存在ですね(笑)。「君のせい」でも、“青春”感は意識されたポイントですよね?
北澤
実は「君のせい」にたどり着くまでの間に何曲か書いていて、他の曲で<青春>って言葉を使ったり、そこにフォーカスを当てた曲も作っていたんです。でも<青春>って言葉を使って作品によせすぎてしまうと当たり前の結果になってしまうというか……リンクしすぎてしまうなと。だから<青春>って言葉を敢えて使わずに、いかにそれを表現できるか意識しました。
──そうだったんですね。それにしても……お話を聞いていると、麻衣とシンクロする青春時代ですね。
北澤
そうなんです! 偶然にも誕生日が一緒で、身長も1センチしか違わないんです。髪色以外は一緒だと思います。凄い尖ってるのに、うさぎのピンをつけてたり、スマホのケースもうさぎにしてたり、可愛いものが好きじゃないですか。そういうところも分かるなって。結局根は女の子なので可愛いものが好きっていう。
──レコーディングはどうでしたか?
北澤
「ギターめっちゃ良い音で録れてる!」って思いながら録ってました(笑)。基本的にこの曲ってギターがカッコよくて、めちゃくちゃ良い音で録れているんです。ど頭のアコギのストロークも意識して頑張って弾いたのでインパクトがあるかなと。
ボーカルのレコーディングは細かいところまで気にして、歌いまわしもどれがいいかみんなで話し合ってて。1番はアニメのオープニングにもなるので聴きやすさを意識したんですけど、2番は私なりに自由に歌いました。後半に向かって自由度が高くなっていきます。
“うた”そのものについては音楽好き以外にも届いてほしいんですけど、一歩進んで、音楽好きが聴いたときに「これめちゃくちゃ音が良いな」「ギターカッコいいな」って思ってもらえるんじゃないかなと思っています。特にギターソロが気に入っていて。
──フックになるような、少し長めのギターソロがありますね。
北澤
このギターソロ、めちゃくちゃ好きなんです。曲自体はシンプルで複雑なことはしていないので、単調にならないように、聴いていて退屈にならないように、シンプルなりにいろいろな引き出しを見せたいなとは思っていました。凄く良いものが録れたなと思いました。弾いているフレーズ自体はそこまで難しいことはしていないので、学生の方とかにコピーしてもらえたら嬉しいです。細かいところを突き詰めなければ、楽しんで弾けるんじゃないかなぁと。
ちなみにニコニコ動画でアニメを見たときに、オープニングがはじまった瞬間に「俺のせいじゃない」ってコメントがたくさん流れてくるのがめちゃくちゃ面白くて(笑)。そういう風に楽しんでもらえてるならよかったなって。
──改めてオープニング映像を見たときの印象というのは?
北澤
めちゃくちゃマッチしてて感動しました! 演奏する立場からすると曲のリズムやキメ……こだわりがいっぱいあるんです。そのこだわりが反映された動きになっていて。曲が活きていて嬉しいなと思いました。あと学生が走ってる姿って無条件に青春を感じさせるなと(笑)。しかも、いろいろなキャラクターが出てくるじゃないですか。可愛いなぁって。
個人的には、サビにいく直前に咲太くんがパンチする一瞬に、高校生のむしゃくしゃした感情が詰め込まれてるなぁと思って、見ていてドキッとします。
──アニメのキャラクター・豊浜のどか(CV:内田真礼)たちが所属するアイドルユニット・スイートバレットがpeggiesの「BABY!」を劇中歌として歌うということで楽しみにしています。自分たちの曲がカヴァーされると聞いたときはどんなお気持ちでしたか?
北澤
自分の曲が自分じゃない発信者を経てリリースされるというのは、初めての経験なので新鮮でした。BPMが上がって、凄くカッコいいアレンジを施していただいて。アレンジひとつで曲の印象って変わるんだなと思いました。自分以外の声がのってるのも凄く新鮮で──単純に嬉しかったです。曲って自分が生んだものなので、自分の生んだ子供が違う場所で活躍しているとほっこりした気持ちになります。
しかも私、アイドルに曲を書きたい!って夢が長年あったんです。女の子のアイドルに歌ってほしいという気持ちがあったのでその夢がかなったなと。自分にとって凄く嬉しいことでした。
──ユニークなMVも見どころのひとつですが、MVに出てくる“君くん”は一体ナニモノなんでしょうか?
北澤
制作側の人たちが提示してくれたアイディアなんです。<君>という言葉が歌詞のなかにいっぱい出てくるし、特徴的な言葉なので、そこにフォーカスを当てましょうと。それで<君>という歌詞が出てくるたびに、君くんを登場させると。どんな風になるのかな?と思っていたんですけど、撮影の日に実際目の前に“君くん”がいて(笑)。ツッコんでいいのか悪いのか分からないという。
──シュールですね(笑)。
北澤
ああいうユルくてシュールな感じは、ジャケットでもずっとやってきたことで。サウンドとはちょっと違う3人のユルい空気感がpeggiesの特徴でもあり魅力でもあるなと思っていたので、そういう意味では“君くん”はピッタリの存在だったんじゃないかなと。君くんが入ることによって “ドラマ仕立て”にとどまらない、コミカルなMVになったと思います。
あと(MVに出演した)中島セナちゃんがすごく可愛かったです! 12歳にも関わらず、彼女自身の世界観がもう完成してるんですよね。「出演していただいてありがとうございます」って感じです。
──期間限定盤のジャケットには書き下ろしの麻衣が描かれています。
通常版のジャケットはお馴染みとなった人気イラストレーター・漫画家の小山健さんが描かれていますが、受け取ったときの印象というのは?
北澤
なんでこんなアイディアが思いつくんだろう?っていう漫画を描いていただいて。“話を理解する前に終わってしまう”ような、あの感じがすごく好きです。世界観が私たちの性格にマッチしているので、完成した作品が毎回楽しみなんです。
裏ジャケには私たちの絵を描いていただいていたんですが、凄く可愛いです。私たちの絵は、それこそ「ドリーミージャーニー」の頃から描いてくれているんですが、今回は「こういうタッチのイラストも描かれるんだ!」って驚くくらい可愛らしいイラストだと思います。実際に手に取らないと裏ジャケは見られないのですが、ぜひ見て欲しいです。
──多彩な要素が詰め込まれた、peggiesらしい1曲になりましたね。
北澤
そうですね。私たちは“自分たち自身を縛らない”ってことを意識して活動しているんです。でも、良くも悪くも、どうあがいても、この3人で演奏したらpeggiesの曲になる。だから今回も「peggiesらしくなったなぁ」って。
──良くも悪くもと北澤さんはおっしゃいましたが、何をやっても自分たちらしくなるって、誇れる武器ですよね。
北澤
結局は武器を扱う人が変わらない限りは変わらないんだなって、自分たちでも安心しました(笑)。歌詞もMVもジャケットも違ったアプローチで攻めてて、良い意味で統一されきっていないので、曲の解釈の仕方も広がるんじゃないかなと。アニメファンの方もいろいろな角度から楽しんでもらえたら嬉しいです。