MENU

Special

TVアニメ『青春ブタ野郎は
バニーガール先輩の夢を見ない』
原作・鴨志田 一
×
監督・増井壮一対談

現実と地続きの場所を舞台に
少年少女の心の悩みを描く

――増井監督が初めて原作を読まれたときのご感想をお聞かせください。

増井
まず、この『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』というタイトルが好きだと感じました。内容はライトノベルというよりも少年文学に近い印象を受け、「これは思春期の少年少女の心の悩みを掘り下げていく作品なんだな」と、興味深く読ませてもらいました。読み進めていく中で特に物理の話を絡めてくる辺りが僕としては一番楽しめたところです。

鴨志田
タイトルが気に入っていただけたのは嬉しいですね。小説が発売になる時に僕としては、タイトルが受け入れられるかどうかが一番心配だったんですよ。最初は「青春ブタ野郎はバニーガールの夢を見ない」というタイトル案を僕が出していて、イラストレーターの溝口ケージさんにもご意見を伺ったときに、「先輩」という単語を入れたら学園ものっぽさが出せるんじゃないかという話になって、完成形になった感じです。

――鴨志田先生はアニメ化が決まったときのお気持ちはいかがでしたか?

鴨志田
もちろん嬉しかったというのもありましたし、監督を受けてくれたのが増井さんということもあって「このタイトルで、よく引き受けてくれたなぁ」と思いました(笑)。

――本作を執筆する切っ掛けはどのようなものだったのでしょうか。

鴨志田
最初は、まず「ちょっと不思議なことが起きる少年少女の物語をきちんと書いてみよう」というところから始まって、登場人物の心情をリアルに描いていくことで何か面白いことができるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。リアリティという点では、藤沢駅周辺や江ノ島などの実在の場所を出すことで、「そこにこの人たちはいるんだよ」という僕らの住んでいるこの世界からの地続き感みたいなものを出していけたらいいかなと思っていました。

――実在の場所をアニメとして描くうえでロケハンなどもされたと思いますが。

増井
ええ、そうですね。江ノ島は以前にも何度か行ったことがあるんですけれども、藤沢駅には降りたことがありませんでした。

鴨志田
通過してしまいがちですよね(笑)。

増井
自分にとってよく知らなかった町というところもあり、ロケハンは、綿密に行いましたね。この作品ではアニメの非現実な部分とリアルな風景が共存できたらいいなとも思っていたんです。全てを現実に即したものにするよりは、両方混ぜてこの世界を作れたらいいかなと。江ノ電も遊びに行く際に乗ったことがあるだけだったので「もしこれに乗って通学していたら?」ということを考えながら周りを見たりして。それまで知っていた部分と知らなかった部分と、両方を見つけられたので、それらを一緒に画面に落とし込みたいなと思いました。

――作品の舞台として藤沢や江ノ島を選ばれた理由はあったのでしょうか?

鴨志田
僕自身がもともと神奈川県の出身なのですが、あんなに海の見える素敵なところで高校生活を送っていなかったので「あの辺りで高校生活を送っていたら、もうちょっとなんかあったのかな……」と思うことが度々ありまして(笑)。今回のお話を書くにあたって、せっかくならそこで「できたらよかったな」と思うことを書いてみようかなというのはありましたね。

リアルな青春の一コマを
描いたアニメに

――アニメ化するにあたり全体的な方針について、話し合われたことはありますか?

増井
僕は、原作の魅力である「少年少女の青春」や「キャラクターのリアルな心情」を、限られた話数の中でどうやって凝縮できるかというところを考えていました。そこでまず鴨志田さんに、「やってほしいこと、やってほしくないことがありましたら」とお伺いするところから始めました。その話し合いの中で、鴨志田さんも「キャラクターが現実に存在しているような、生身の少年少女である」という話をされていて、こちらの考えと同じだったこともあり、それならば「とある少年少女の、青春の一コマ」をしっかりとアニメで描きたいと思うようになりました。

――シナリオ打ち合わせにも鴨志田先生は参加されたとのことですが、そこではどのようなことを話し合われたのでしょうか?

鴨志田
そうですね、僕が大事にしてもらえるとありがたいなと思っていたところは、さきほど監督のお話に上がったところがほとんどなんです。監督や構成・脚本の横谷(昌宏)さんも含め、アニメスタッフの皆さんに作品をしっかりと理解して頂けていたので、僕のほうからシナリオの構成面に関して意見することはなかったような気はします。どちらかというと、キャラクターの心情を描くにあたって、核となるところがあれば、そこを指摘するというのがメインで、あとは細かい伏線の取り扱いについてお話する程度でした。

――伏線というと、アニメの1話でもすでに今後が気になるものが多数出ていたかと思います。こういった伏線は最初から後の展開を見通したうえで書き始めていたのでしょうか?

鴨志田
一応シリーズ1弾から7弾あたりまでのボリューム感を想定して作ってはいましたね。キャラクターにペアリングした要素としての思春期症候群のネタをある程度ストックしておいて、「この順番で並べていけば物理の説明もしやすいだろう」とか思いながら設定を盛り込んでいきました。今回アニメ化にあたって読み直したんですが、ちょっと自分でもびっくりするくらい、きれいにパズルがはまっているなと思いました(笑)。

――そんな伏線が散りばめられている第1話が、このインタビュー掲載時には放送されていますが、改めて第1話での見どころや注目点をお聞かせください。

増井
やはり咲太と麻衣が出会うシーンでしょうか。バニーガール姿が似合う有名人の美人の先輩と何でもない俺という、ふたりが出会うことが物語の動き出すきっかけになっていますから。

――バニーガールの麻衣が出てくるシーンは咲太がぎょっとしつつも、淡々とお話が進んでいくのが印象的でした。

増井
そこはアニメだからといって、オーバーなリアクションをさせる必要性を感じていませんでした。1話では、すぐに麻衣の心の迷いや悩みの話にすぐ入っていくので、スタートも現実にある自然な雰囲気から入りたいと思っていたんです。それは他の子たちもそうなんですけど、彼ら彼女らはあくまで10代の少年少女であり、普段学園生活では表に出さない困りごとや迷いごとを持ちながらも、胸にしまいこんで生活していると思うんです。麻衣も当然そういう女の子のひとりで、おふざけでバニーガールの格好をしているわけではないというのを態度で表したら、あの出会いのシーンになりました。

――おふざけで着てないからこそ、麻衣は平然としているんですね。

増井
むしろ、こんな格好してうろついているのに誰も見ないというのは、実際に考えたら血の気が引くような体験だと思うんですよね。でも物語の始まりなので、あまり恐ろしいという雰囲気はださず、かといってふざけている雰囲気でもないという……そんなニュアンスで描いています。

――鴨志田先生はこのシーンはいかがでしたか?

鴨志田
咲太君が顔を上げるところが、すごくいいですね。たぶん本当に目の前を通られたら「んん!?」となると思うので(笑)。

増井
国見君が「二度見して、その後ガン見する」と言っているのも、その通りだなと思いますね。

――そもそも、どうしてバニーガールを出そうと思いつかれたのですか?

鴨志田
ひとつは「本当に目立つ格好って何だろう?」と考えたときに一般的なコスプレとしてはバニーガールかチャイナかナースの三択かなと思ったんです。その中で、ナースは「普通に看護師さんがお昼を食べに来ていれば、町にいるな」と思い、チャイナは「中華屋から出てこられるな」と(笑)。

咲太と麻衣がいる世界を
身近に感じる映像を目指して

――麻衣のお話は伺いましたが、咲太についてはいかがでしょうか?

増井
咲太たちの通学シーンは、生徒の数が多かったりと大変な点もあったのですが、演出、作画など、スタッフの皆さんに頑張って頂きました。咲太たちの生活は学校が中心であり、たくさんの学生がいる中で物語が始まるというのを映像で見てもらいたかったんです。咲太は本当に友達が少なく、周りの人達にとって自分はいてもいなくてもいいような存在だと知ったうえで、数百人、千人近くの学生がいる空間に行かなきゃいけない。そのことを咲太の視点から見たらどういうふうになるのかということを、映像で見て判るようにしたいと思ったんです。

――麻衣が通学中に浮いている感じも、とてもリアルでした。

増井
そうですね。「アニメじゃないよ、ほんとだよ」、「もしかして見ている君にも起こるかもよ」と思ってもらえる映像にするのが目標ですね。視聴者の皆さんの中にも、普通に学校に通っていたり、会社に出勤している人もいると思うんですけど、まさに同じような体験をしているかもしれないし、これからするかもしれないことだと思うんです。そこは「アニメだけど嘘じゃないよ」と考えながら作っています。

――そんな中でも、咲太と麻衣のふたりのやりとりを見ていて楽しく、「こんな会話をしてみたい」と思ってしまいます。

鴨志田
咲太君にああいう態度を取らせるのも麻衣さんの手腕ですし、麻衣さんが照れたり、慌てたり、強がったりという表情を引き出せるのも咲太君の手腕だと思うので。あのふたりが組み合わさっているからこそ、あの感じになるというのが、咲太君と麻衣さんのいいところなのかなとは思っております。

――今後のアニメの展開も気になりますが、お話しいただける範囲でお聞かせいただけますか?

増井
そうですね、先行上映会で1~2話を見て頂いた方もいると思うんですけど、3話まで見ないと落ち着かないのではないかなと思います。今はまだ麻衣にちょっと余裕がある風でしたけど、話が進むにつれてだんだんと自分の深い世界、素直な顔を見せるようになってきますので、皆さんも麻衣の心情を一緒に追いかけてみて頂きたいです。そして3話あたりで構築されてくる麻衣と咲太の関係というのが、その後ふたりを取り巻く人たちの登場で、どう変化していくのかというところもポイントなので、今後の展開も楽しみにしてもらえたらと思います。

鴨志田
第1話は麻衣中心の話だったりしますが、ほかにもちょっとだけ出てきた女の子の話がこの後どんどん出てくるので、それを楽しみに待っていて頂ければと思います。

――先生には、出来上がった映像を見ての感想も伺えたらと思います。

鴨志田
そうですね、一番感じたのは全体のバランスが凄く綺麗で、美しい映像として仕上がっているなというのがありました。キャラクターだけが凄く前に出ているわけでもなく、背景だけが抜きん出て綺麗というわけでも、BGMが妙に盛り上げようとしてくるというわけでもない。すべてがバランスよく集まってできている映像だと感じました。そこが見所だと思います。アニメとしては、この作り方は一番大変だと思うんですけど(笑)。

――最後に、おふたりから視聴者の方へのメッセージをお願いします。

増井
咲太や麻衣、これから登場してくる子たちが直面する悩みを、視聴者のみなさんも実際のクラスメイトや同僚の悩み事や愚痴を、膝をつき合わせて聞くような感じで、キャラクターの友達になった気分でこの番組を楽しんでもらえたら嬉しいです。

鴨志田
第1話を見ていただければわかると思いますが、すごく濃密に作っていただいている作品です。決して目をそらさずに、30分とは思えない30分を堪能していただきたいなと思います。